Astro Advent Calendar 2022 with Einstein Cross
2021.12.13
こんにちは,さいです。天文学の研究をしているポスドクです。 アインシュタインクロスの皆さんに声をかけていただいて,「Astro Advent Calendar 2022」というイベントの一環でこの記事を書いています。
もうすぐクリスマスです。夜は街中イルミネーションできらきら。でも,イルミネーションもいいけど,冬の星空もいいですよね。冬は明るい星が多くて空気も澄んでるので星空が綺麗な季節です。
そんな夜空を見上げると当たり前のように輝いている星たちですが,皆さんはそういった星たちがどのようにして生まれてくるのか,想像したことはあるでしょうか?今回は私の研究分野でもある星の誕生についての話を書いてみようと思います。
本題に入る前に,そもそも天文学者はどうして星の誕生について知りたいのでしょう?
私は星や惑星 1 がどうやってできるのかを研究していますが,そこに興味を持ったきっかけは私たちが暮らす地球でした。地球は生命に溢れていて,人間は高度な文明を築き上げて,最近ではAIなんかもどんどん発達してきたり。そんな地球のお隣の金星や火星には,少なくとも現時点では生命体は確認されていなくて,いたとしても微生物かなんかだろうと考えられています。
生命で溢れている地球って宇宙の中で特別な存在なんだろうか?太陽系ってどうやってできたんだろう?そういった疑問から星や惑星がどうやってできるのかに興味を持つようになりました。
どうして多くの天文学者が星の誕生について知りたいのか?それは私たち地球人のルーツを知りたいからです。
さて,本題に入ります!星はどこでどうやって生まれるのでしょうか?
宇宙空間に地球のような空気はありませんが,宇宙は完全な真空でもありません。星間空間の中でもガスや塵が集まって存在している部分のことを私たち天文学者は分子雲と呼んでいます。その分子雲の中でもさらにガスや塵が濃く集まっていってる部分のことを分子雲コアと呼びます。この分子雲コアが自身の重力で縮んでいくことでやがて中心付近に星が作られます。
ただし,ガスが濃いといっても,地球表面の大気の密度がおよそ1 kg/m3なのに対して分子雲コアの密度は10–16 kg/m3程度です 2 。星間空間のガスはすごく希薄なことがわかります。また,星ができる前の分子雲コアの内部には熱源はありません。分子雲コアの温度はなんと…–260ºです!星は実はすごく冷たい環境下で生まれます。
天文学者たちは上に紹介したような冷たい塵やガスを観測することで,星がどうやって作られているのかを調べています。 望遠鏡にもいくつか種類があって,こういった冷たい塵やガスを観測するのにはよく電波望遠鏡を用います。電波というのは電磁波の一種で,電磁波のうち波長の長いもののことを指します。私たちが普段目にしている光も電磁波の一種です。光は波長がおよそ0.0004 mm から 0.0008 mmであるのに対して,電波望遠鏡が受ける電波の波長はおよそ1 mmやそれ以上になります。
–260ºもの低温なガスは私たちが普段目にする光では暗くてとても見ることができません。しかし,そういった冷たいガスは電波の波長で明るく光っています。
上の写真は電波を用いた分子雲の観測の一例です。可視光線では暗く見える部分が電波だと明るく光って見えます。このように電波望遠鏡を駆使して天文学者は星の誕生を探っています。
真面目な星の誕生の話はこれでおしまい。星空を見上げたときに,そういえば星ってどうやってできるんだったっけ,とか考えると,また見え方が変わって楽しいかなと思います。もうすぐクリスマス。出かけた帰り道にでも綺麗な冬の星空を楽しんでみてください!
1: 厳密には太陽のように自分で光る星を恒星,恒星の周りを周期的に回る大きな天体を惑星と呼びます。ここでは恒星のことを星と呼んでいます。 2: より直感的に書くと,分子雲コアの密度は地球表面の大気の密度のたった1/10000000000000000(!!!)です。